食において、ここ数年で注目されている「発酵」。愛知県はそんな発酵醸造の一大産地であることをご存じでしょうか。愛知県では個性的な発酵調味料が数多く作られており、そのどれもが地域に根付き、人々に愛されているんです。

今回のコラムでは、愛知の醸造文化について、地域で作られる調味料やお酒を中心に紹介します。奥深い発酵・醸造の沼に足を踏み入れてみませんか。

目次

発酵食品が一大ブーム!?その理由

古くから日本の食に用いられており、結びつきも強い発酵食品。そもそも「発酵」とは、食品に人間にとって有効な微生物が働き、成分を分解することで見た目や味が変わること。腐敗とも似ていますが、悪い菌が多くなり「おいしくない」と感じる腐敗に対し、「おいしい」と感じるのが発酵です。

そんな発酵食品ですが、数年前から健康や美容のために腸内環境を整えるのが良いという認識が浸透し、人気が高まっています。「腸活」という言葉も頻繁に耳にするようになりました。

さらに、コロナ禍によって健康意識が高まり、免疫力を高める発酵食品によりスポットが当たるように。おうち時間が長くなったことでも、スーパーで手軽に買える発酵食品を手に取る人が増えたといえるのではないでしょうか。

発酵・醸造文化豊かな愛知

愛知県は、主に尾張、西三河、東三河の3エリアに分けられることが多いですが、どのエリアも醸造を盛んに行ってきた地域です。これらの地域では古くから味噌や醤油、みりんや酒が造られ、江戸時代には多くの品物が船で江戸まで運ばれていたといいます。

愛知で発酵・醸造文化が栄えた理由には、温暖な気候の平野が広がっていたことで米や麦、大豆が生産できたこと、早くから用水整備が進んだため良質な水が確保できたこと、海運業が栄えたことなどが考えられます。

これらのような要因が組み合わさり、愛知で多様な醸造文化が発達したのですね。

それでは実際に、愛知県で醸造される調味料やお酒を見ていきましょう。

【武豊町】たまり醤油

名古屋駅から電車で1時間ほど。知多半島は半田市の南部に位置する武豊町には、たまり醤油の蔵元が集まっており、主な産地として有名です。

たまり醤油は、味噌を醸造するときにできる「味噌だまり」をしぼったもの。上にたまる濃厚で美味しい液体が名前の由来といわれています。

武豊町では明治時代初期に主増税増などが原因で酒造業が減退した結果、不要になった蔵や桶などを使って味噌・醤油業を始める業者が増えました。さらに武豊港が開港し、中国などから大量に大豆が輸出されるようになったことで、醤油造りが発展したんですね。

色は黒色に近く、とろみがあるのが特徴で、一般的な醤油より濃厚な味わいがあるコクがあるため、シンプルに刺身につけて食べるのもよし、さっぱりした鶏肉などを炒め煮にするなどにもおすすめです。

【碧南市】白醤油

白醤油は、醤油のなかで最も淡い色をしたもの。醤油の色がつかないため、炊き込みごはんやお吸い物が彩り豊かに仕上がります。主な原料は小麦となっており、熟成期間が短いため素材を活かすのにぴったりの醤油です。

全国的にも専業のメーカーは少なく、主産地は愛知県碧南市。醸造に適した地下水に恵まれ、近隣の地方から小麦などを安定して購入できたことから白醤油づくりが発展しました。碧南市には白しょうゆの専業メーカーがヤマシン醸造・七福醸造・日東醸造の3社あり、白醤油といえば碧南市ともいわれるように。

白醤油には独特の甘みと香りがあり、素材のうま味を引き立てるため料理が楽しくなります。洋菓子の隠し味としても効果的で、碧南市で作られる「ヤマシン白醤油マドレーヌ」は、白しょうゆのコクを生かした、塩味のきいたスイーツです。

白醤油を使ったご当地グルメ「へきなん焼きそば」

碧南市では、地域名産の白醤油とにんじん、玉ねぎを美味しくいただくグルメとして2011年に「へきなん焼きそば」が考案されました。2022年には、文化庁によって「100年続く食文化」として「100年フード」に認定されているんですよ。

白醤油と三河みりんで味付けされたあっさりとした味付けが特徴で、ご飯にも合う新感覚の焼きそばです。

へきなん焼きそばが食べられるお店

だいどころ

3.3
37
  • へきなん焼きそば
  • 碧南市
  • あおいパークバス停

たぁぶる

4.3
53
  • へきなん焼きそば
  • 碧南市
  • 新川町駅

さくら

4.0
37
  • へきなん焼きそば
  • 碧南市
  • 新川町駅

レストラン美志ま

4.2
121
  • へきなん焼きそば
  • 碧南市
  • 碧南駅

福本屋

4.9
209
  • へきなん焼きそば
  • 碧南市
  • 碧南中央駅

好味家

3.4
94
  • へきなん焼きそば
  • 碧南市
  • 碧南駅

新撰組

3.9
81
  • へきなん焼きそば
  • 碧南市
  • 碧南中央駅

へきなん焼きそばについて詳しく知る

へきなん焼きそば

愛知県碧南市発のご当地グルメ「へきなん焼きそば」。地元産の白しょうゆや野菜を使った焼きそばは、地元民をはじめとして多くの人から愛されています。 ここでは、「へ…

【碧南市】白だし

先述した白醤油に昆布、かつおだしを加えた白だし。白だし自体は全国的に知られた調味料ですが、実は碧南市の七福醸造が1978年に日本で初めて製造したものです。もともと白醤油専門メーカーでしたが、ある料亭の板前から「茶碗蒸しに使える美味しいダシがほしい」という依頼から生まれたのだとか。

白醤油と同じく色が淡く、料理に足すだけで味に深みが出る万能調味料なんですよ。

上の画像は、碧南市で白だしを最初に作った会社「七福醸造」がイベントで出品した、白だしを使ったおうどんです。優しいうまみが体にしみわたります。こちらも味付けはシンプルに白だしのみだそう。おうちでも簡単に作れちゃいます。

また、七福醸造の工場「ありがとうの里」では、歴史ある白だしの工場見学をすることができます。絞りたて白醤油の試飲などもさせていただけるため、足を運んでみてはいかがでしょうか。

白だしの元祖・七福醸造の工場見学!「ありがとうの里」レポート

白醤油・白だし製造メーカー「七福醸造」の製造工場『ありがとうの里』へ行ってきました! 「白醤油」の歴史、ここで生まれた「白だし」のことはもちろん、七福醸造のモ…

七福醸造「ありがとうの里」の工場見学について

  • 住所:愛知県碧南市山神町2-7
  • 電話番号:0566-41-1508
  • 営業時間:9:00~16:00
  • アクセス:知多半島道路「阿久比(あぐい)インター」 下車、衣浦大橋(きぬうらおおはし)経由で約15分
  • 公式HP:https://www.7fukuj.co.jp/consumer/arigato_sato/

【碧南市】三河みりん

愛知県東部は豊橋、岡崎、豊田を中心としたエリアである三河では、200年以上も前から伝統的なみりん製造が行われています。碧南市の「九重味醂」が、酒粕から造った焼酎を、蒸したもち米と米麹と合わせて熟成させたのがその始まり。

三河の良質な水と温暖な気候がまろやかで美味しいみりんを生んでおり、当時は「女性でも飲める甘いお酒」として親しまれていたようです。

三河本みりんの深みある甘さが楽しめる「みかわぷりんパフェ」/ K庵

九重味醂の本社では隣接する蔵の見学を無料でできるほか、カフェ「K庵」では三河みりんを使ったバリエーション豊かなスイーツや食事を楽しむことができます。見学とカフェでの食事は事前に予約しておくようにしましょう!

【岡崎市】豆味噌(八丁味噌)

画像提供:岡崎市

八丁味噌の由来と特徴

愛知県岡崎市で造られる豆味噌である八丁味噌は、岡崎城から西へ八丁の場所に蔵があることからその名がつきました。八丁味噌を名乗ることができるメーカーは、旧東海道を挟んで隣同士に位置する「まるや」と「カクキュー」の2社のみ。

大豆のみから造られ、桶の上に石を積んで最低2年の熟成を経た味噌は、独特の渋みと酸味が特徴です。

八丁味噌を使ったご当地グルメ「岡崎まぜめん」

基本的にどんなものにかけても美味しい八丁味噌は、味噌おでんやみそかつなどといった名古屋グルメにも用いられていますが、岡崎市には「八丁味噌を使うこと」が条件にもなっている「岡崎まぜめん」があります。

2012年に発足した、八丁味噌が名産である岡崎の名物料理を作ろうというプロジェクトから生まれたもので、グルメや人が「まざりあう」ことがテーマにもなっています。岡崎まぜめんには、以下のような明確な定義があるんですよ。

  •  一、八丁味噌を使用!! 
  •  二、なたね油赤水を使用!! 
  •  三、岡崎産の食材を使用!! 
  •  四、麺料理である!! 
  •  五、ちゃんとまぜる! 
  •  六、自分オリジナルの食べ方を見つける!! 
  •  七、まぜめんを食べ歩こう!! 
  •  八、まぜ友を増やそう!!   

岡崎まぜめんが食べられるお店

大正庵釜春 本店

4.6
33
  • 岡崎まぜめん
  • 岡崎市
  • 岡崎公園前駅

萬珍軒 本店

4.8
62
  • 岡崎まぜめん
  • 岡崎市
  • 東岡崎駅

岡崎まぜめんについて詳しく知る

岡崎まぜめん

岡崎市は愛知県のほぼ中心に位置しており、隣接する豊田市と並んで西三河地域を代表する都市です。 愛知県と言えば味噌カツに代表されるように、味噌をふんだんに使用し…

【半田市】日本酒

知多半島の酒造り

知多半島は「日本一の発酵王国」とも称されるほど醸造文化が盛んな地域。その理由には、江戸時代の「酒株制度」があるといわれています。

酒株制度は、人々が勝手に酒を造ることを禁止し、幕府から酒造の免許を買うことを求める制度でした。そんななか知多は船による江戸までのアクセスが良かったことから、幕府が酒造りを奨励します。この制度によって尾張藩の財政も潤い、より栄えました。

また、酒蔵で使用し、酒造りに使えなくなった木桶などの道具を味噌や醤油づくりに転用したため、発酵文化も同時に栄えていったという経緯があります。

半田運河で半田市の酒造りをめぐる

半田市に本社を構える調味料メーカーの「ミツカン」。実は現在でも日本酒を造っている「中埜(なかの)酒造」とは一族で、どちらも古くから醸造を行っています。

半田市にある「半田運河」には、ミツカンや中埜酒造の醸造の歴史などを知れる施設が点在しています。ミツカンの江戸時代から続く酢づくりを学べる「MIZKAN MUSEUM」に、中埜酒造株式会社によって開設された日本酒の博物館「國盛 酒の文化館」など。この他にも醸造にまつわる施設が多くあります。

日本三大運河にも数えられる半田運河。ツアーや旅行などで訪れた際には、輸送基地として栄えた江戸の面影を残す運河をゆっくり散策してみるのもいいですね。

日本酒だけじゃない!半田が誇るカブトビール

半田市では、実は日本酒だけではなくビールの製造も早くから手がけていました。明治20(1887)年に四代目中埜又左衛門と盛田善平によって始められたビール造りは、10年ほどで急成長を遂げ大手のサッポロ、エビス、キリン、アサヒに対抗するように。

そうして、本格的なドイツビールを求めて生まれたのが「カブトビール」であり、現在は観光スポットになっている「半田赤レンガ建物」です。明治33年のパリ万博博覧会では金牌を受賞し、当時東海地方最大のシェアを誇っていたカブトビールも、半田市で醸造されていたんですよ。

醸造文化盛んな愛知の発酵食品を楽しもう!

いかがでしたでしょうか。愛知県では古くから発酵・醸造文化が盛んで、それに伴って個性あふれる調味料を使った料理やお酒が生まれてきました。

愛知県の飲食店では、長い歴史の中で受け継がれ、愛され続ける発酵食品の魅力を存分に感じることができます。

国内をはじめ、海外からも注目されている発酵調味料を使った愛知のご当地グルメ。いちど足を踏み入れたら深みにはまってしまう、醸造文化の世界に足を踏み入れてみませんか?